東京地方裁判所 平成4年(ワ)11263号 判決 1993年6月30日
原告
浮田典良
同
浮田博良
同
横田貴美子
右三名訴訟代理人弁護士
渡部喬一
同
赤羽健一
同
小林好則
同
小林聡
被告
浮田マツ子
同
浮田清孝
右両名訴訟代理人弁護士
畠山保雄
同
石橋博
主文
一 別紙物件目録一記載の各土地を同目録二記載の1の土地と2の土地とに分割し、1の土地は原告ら三名のみの共有とし、2の土地は被告ら二名のみの共有とする。
二 別紙物件目録三記載の建物を被告ら二名のみの共有とする。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一原告らの求めた裁判
別紙物件目録一記載の各土地及び同目録三記載の建物につき競売を命じ、その売却代金を原告らに各六分の一並びに被告浮田マツ子に六分の二及び被告浮田清孝に六分の一の割合で分割する。
二被告らの求めた裁判
1 別紙物件目録一記載の各土地を同目録二記載の1の土地と2の土地とに分割し、1の土地は被告ら二名の共有とし、2の土地は原告ら三名の共有とする。
2 原告らは、別紙物件目録一1及び2記載の各土地について前項の分割による分筆登記の手続をした上、同目録二1記載の土地について、前項の共有物分割を原因として、各共有持分六分の一の内から、それぞれ被告浮田マツ子に九分の一の、被告浮田清孝に一八分の一の持分移転登記手続をせよ。
3 被告らは、別紙物件目録一1及び2記載の各土地について第一項の分割による分筆登記の手続をした上、同目録二2記載の土地について、第一項の共有物分割を原因として、原告らそれぞれに対し、被告浮田マツ子の共有持分三分の一の内から九分の一ずつの、被告浮田清孝の共有持分六分の一の内から一八分の一ずつの持分移転登記手続をせよ。
4 被告らは、別紙物件目録三記載の建物について、第一項の共有物分割を原因として、原告らそれぞれに対し、被告浮田マツ子の共有持分三分の一の内から九分の一ずつの、被告浮田清孝の共有持分六分の一の内から一八分の一ずつの持分移転登記手続をせよ。
第二事案の概要
一本件は、原告ら及び被告らの共有となっている不動産について、原告らが競売の売却代金を分割する方法による共有物の分割を求めたのに対し、被告らは現物を分割する方法による共有物の分割を求めた事案である。
二争いのない事実
1 原告ら及び被告らは、別紙物件目録一記載の各土地(以下、総称して「本件土地」という。)及び同目録三記載の建物(以下、「本件建物」という。)を原告ら及び被告浮田清孝が各六分の一、被告浮田マツ子が六分の二の割合で共有している。
2 原告らは、被告らに対し、本件土地及び本件建物の分割を求めたが、原告らと被告らとの間に協議が調わなかった。
三争点
1 現物分割をすることができないとき又は現物分割によって著しく価格を損ずる恐れがあるときに当たるか(民法二五八条二項の要件が満たされているか)。
2 原告らが競売の売却代金を分割する方法による共有物の分割を求めるのは、権利の濫用に当たるか。
3 現物分割をすべきであるとすれば、どのように分割すべきか。
第三争点に対する判断
一争点1について
弁論の全趣旨によれば、本件土地及び本件建物を現物で分割する場合には、原告ら三名の共有する部分と被告ら二名の共有する部分とに分割すれば足り、原告らもそれぞれの単独所有にする分割まで求めるものではないと解される。そして、原告ら三名の共有持分の合計と被告ら二名の共有持分の合計は、それぞれ二分の一ずつである。
本件土地は、別紙物件目録二1の部分と同2の部分とに分割すれば、それぞれが鑑定評価額二億一〇〇〇万円で、等価値となる(鑑定の結果)。本件土地を分割する場合には、その地上建物である本件建物は、建築後二九年を経過する老朽の木造家屋である(<書証番号略>、被告浮田マツ子本人)から、その経済的価値を無視して差し支えないものと考えられる。したがって、本件土地及び本件建物を現物をもって二分割することは可能である。また、二分割する場合の各部分の価格の合計が分割しない場合の全体の価格より低額となることは明らかである(鑑定の結果)が、著しくその価格を損ずる恐れがあるとまでは認められない。なお、右の分割は、本件土地を北側と南側とに分割するものであるが、本件土地を東側と西側とに分割することは、本件土地の南東部分と公道との間に堤があるなどの事情により、著しくその価格を損ずる恐れがあり、当事者のいずれもが望まないところである(弁論の全趣旨)。
二争点3について
本件土地を別紙物件目録二1の部分と同2の部分とに分割するとして、原告らと被告らにそれぞれそのいずれを取得させるかが問題である。本件訴訟においては、弁論兼和解の手続でその調整を試みたが、原告らと被告らは、いずれも別紙物件目録二1記載の土地(以下「南側土地」という。)を自らが取得することを要求して、ついに譲るところがなかった。
原告らがその理由とするのは、原告らはその取得する部分を売却して対価を得ることを分割の目的としているが、別紙物件目録二2記載の土地(以下「北側土地」という。)は、幅員四メートルの通路によって公道に通ずる袋地となるため(鑑定の結果)、南側土地と等価値ではあっても換価性に乏しく、速やかな処分を期し得ないので、右の目的にそぐわないということである(弁論の全趣旨)。
他方、被告らがその理由とするのは、第一に、被告らは現在北側土地の上にある本件建物に居住しており、被告らが南側土地を取得すれば、本件建物に居住したまま南側土地の上に被告らが居住するための建物を新築することができること、第二に、被告らが公道に面した南側土地を取得して居住することによって、近隣との関係で依然として本件土地に「浮田家」が存在することになるということである(被告浮田マツ子本人)。
しかし、被告らが理由とするところは、第一の点は、一時的な必要を言うにすぎず、むしろ現に被告らの居住する本件建物のある北側土地を被告らが取得する方が合理的であると考えられ、第二の点は、専ら近隣に対する体面を言うにすぎないものと認められ、必ずしも合理的な理由であるとは認められない。これに対し、原告らが理由とするところは、経済的な合理性を有しているものと認められる。
そうすると、本件土地を現物をもって分割する場合には、被告らの求めるところとは逆に、南側土地を原告らに取得せ、北側土地を本件建物と共に被告らに取得させることとするのが、より合理的であると考えられる。
三以上検討したところによれば、本件土地及び本件建物は、主文のとおり現物をもって分割するのを相当とする。したがって、争点2については、判断する必要がない。
なお、被告らは、現物分割に伴う登記手続についてまで裁判することを求めたが、その旨の訴えを提起したものではなく、本件訴えは、原告らが共有物の分割を求めるに止まるものであるから、現物分割に伴う登記手続を命ずる裁判はしない。
(裁判官近藤崇晴)
別紙物件目録
一 土地
1 所在 東京都世田谷区祖師谷五丁目
地番 五四七番
地目 宅地
地積525.61平方メートル
2 所在 東京都世田谷区祖師谷五丁目
地番 五四八番
地目 宅地
地積 585.12平方メートル
3 所在 東京都世田谷区祖師谷五丁目
地番 五四九番
地目 宅地
地積 95.86平方メートル
二 土地
1 右一1及び2の土地のうち、別紙図面のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分 521.56平方メートル
2 右一の各土地のうち、別紙図面のイ、ロ、ハ、ニ、A、B、C、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分844.07平方メートル
三 建物
所在 東京都世田谷区祖師谷五丁目五四七番地・五四八番地・五四九番地
家屋番号 五四七番
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積
一階 177.12平方メートル
二階 91.91平方メートル
別紙